【昆布の浜】


昆布漁の時期は浜が一面、昆布干しで埋め尽くされる。
自転車で浜に着くと、昆布でいっぱいなので、浜の一番はしっこに自転車をおき、
昆布を踏まないように隙間をみつけて、波打ち際に出た。
昆布はもちろん波が絶対にこないかなり丘の方に干してある。
僕らはそしていつものように波打ち際で一心不乱に遊ぶのだ。

海の方をみているときはいつもと同じ海がどこまでも広がっている。
しかし背後を見ると、一瞬ギョッとする。
昆布がそこまで迫っている。
ああ、そうか、僕らの遊びのフィールド、今日はずいぶん狭いんだ、と思う。
風向きによってときおり、昆布の香りが漂うときがある。
決していい香りと感じることはない。
鼻の奥にツーンとくる、ニンニンした感じのきつい臭いだ。

でも、次にきたときに、この前までいっぱいあった昆布が無くなって、
また砂だけの浜になっていると、なにか不思議な感覚に襲われる。
そう、浜を占拠していた昆布は、この近くに住む漁民の生活の糧だ。
だから「あ、昆布の仕事が終わったんだ」と思うと、
その人たちの姿も消えたような感じがする。
しばらくあったサーカス小屋が広場から消えてしまったような。

「浜に光るよ 昆布がならんでる たくさんとれたから みんなで干してる
駆け抜ける夏を追って 日々の糧と海のめぐみ 生きてゆく北の街で 人の暮らし足もとから」