【砂の砦】


「海を背に 夢中で作った砂の砦 寄せてくる 波の攻撃 何度か耐えて
でもやがて崩れ落ちて消えてしまう」

子供のときに砂浜で僕が一番時間を費やした遊びは、
なんといってもこの、砂の砦づくりです。
これはなかなかの総合的知的遊びです。

まず、位置を決めるんですが、これからどのくらいの時間が経てば、
どこら辺まで波が来るかを推測します。
これは長年の経験から培われた勘が頼りです。

「砦」は潮入式の建物を想定しますから、
完成した頃に波が達するくらいの位置がいいわけです。
波がちょぼちょぼと砦にかかるくらいで、
海に面した前門から海水が砦内の水路に流れ込んでくる。
それはすぐに左右に円を描いて分かれ最後方で合流して、
砦の中庭の池に達するようになっています。

ですから、はじめは中庭の池にはなかなか達しない状態がしばらく続き、
あるレベルになると、ざざーっと池に海水がたまる。
これがなかなか感動的。
池の中央には貝殻のオブジェなんか設置しておいたりするのはセンスの問題。
このときは砦の前面は波に洗われていますから、
海側から見ると完璧な真っ平な砂の面に砦がそそり立ちます。
しかし、ちゃんと設計されていない砦は、
そこに至るまでに前面が波でえぐられて崩壊してしまったりする。

砂にも堅さを持たせるために、
海水を含んだ砂をしっかり押し固めながら外壁は重ねていきます。
また、すばらしい砦は、どこから見ても美しくなければなりません。
左右対称に塔や城壁を築くのが基本です。
デザインセンスが試されます。
貝殻や海藻や漂着物での装飾も大切です。

この完成した自分の砂の砦が、
波にだんだん浸ってゆき、潮入の構造が決まって、
水路や池に海水が満たされたときが最高の状態なわけです。
しかし、もちろんいつでも崩壊の危機にもさらされています。
突如、建設中に大波がきて、あっというまに跡形もなくなるときもあります。
うまく行っても、最高の状態が長く続くわけがないのが砂の砦の宿命です。
どんどんあちこちから崩壊が始まります。
凝ってアーチなど作りますと、まずそこから崩壊します。
しかし、この砦は最後に完璧に崩壊してしまうのがいいのです。

その日の満ち引きの程度で、結局、波が砦に達しなくて、
乾いた砦がぼーっと、残っていること、
もしくは半崩壊状態で波が引いていってしまうこと、
こういうのはいただけません。

自分が帰るときに、自分の作品を砂浜に取り残して、去るのはあまりいいキモチじゃありません。
気になってまた明日見に来なくちゃ、なんてことになります。
実際にそんあことがありました。
行くと残ってはいたのですが、
誰かが手を加えていたり、半分壊されていたりとか、そんなことになっています。
そんなことなら、まっさらになって跡形もない方がいいんです。
「夢中で作った砂の砦」はまさに夢の中の砦であって欲しい。
夕暮れ、周りがみんな赤く染まる中、砦のシルエットがだんだん姿を消してゆく。
これが最高の別れ方です。