【ボートに揺れる】


小学校1年のときの同級生でK子ちゃんと言う、
丸顔の活発なカワイイ女の子がいた。
釧路の春採湖でボート屋を営業する家の娘だった。
ぼくらはよく遊んだ仲で、何度かボートにも一緒に乗った。

彼女はさすがに操縦が上手く、かなり広い湖の真ん中あたりまで、
あっというまに漕ぎだした。
また、ボートに馴れているものだから、ボート上での動作が実に大胆で、
平気で立ち上がってボート内を移動した。

そのたびに激しく揺れるボートの中で僕は、
「ぎゃーっ」と叫び、ヘリにしがみついていた。
あまりにスリルを伴いすぎるデートに僕は疲れ、
釧路の早い夏が足早に過ぎ去って行く頃から、
ボート屋への足が遠のいていった。

でも、今でもよく憶えている。
K子ちゃんはボートに乗り込む前に、
売店を兼ねているボート受付小屋から、明治マーブルチョコを
1本失敬して、僕と分けて食べたものだ。
何個かがボートの底板の簀の子の間から落ちて、
簀の子の隙間からカラフルな丸いチョコ玉が見えかくれしていた。

彼女は今でもボート屋の近くに住んでいて、
二人の子供のお母さんになっている。